この詩は遥か昔の手紙にまつわる内容です。
当時はまだ郵便制度も確立していなかったので、
手紙を出すには人に託すしかなく、大変なことでもありました。

作者は中唐の詩人張籍(ちょう・せき)です。
中唐の詩人と言えば、韓愈、白居易、張継、賈島の名が挙がりますが、
韓愈は生涯の師匠、白居易は詩友であり、
同じく韓愈を師匠とした賈島とも交流があったようです。

剛直で頑なな反面、誠実で心優しく、面倒見の良い人物だったようです。
日常のちょっとした想いを何の飾り気もなく、
サラッと表現するのが得意と言われています。
早速詩の内容を見てみましょう。

洛陽(らくよう)城(じょう)裏(り)秋風(しゅうふう)を見る
家書(かしょ)を作らんと欲して意(おも)い萬(ばん)重(ちょう)。
復(ま)た匆匆(そうそう)として説(と)き尽(つ)くさざるを恐れ
行(こう)人(じん)の発(た)つに臨(のぞ)んで又(ま)た封を開く。

一句目、洛陽城内で始めて秋風というのを意識した、ということでしょう。
「見」は目で視覚的に捉えるというより、
「会う」「出くわす」という意味です。

「秋風が吹く」というと万人共通に寂しさをイメージしますが、
ここではそれに望郷の念が重なります。

ふと、故郷の家族に手紙を書きたいという思いが湧いてきて、
その思いが益々募る様が「万重」という言葉から伝わりますね。
その後作者は手紙を書いて、封をします。

ところが、三句目になって、急いで書いたため
書き足りなかったような気がしてきます。

そこで、四句目に、行人(手紙を運んでくれる人)が
旅立つ前にまた封を開くのです。

私も昔、書き終わった手紙をポストに入れる段階になって、
字を間違っていなかったかな?あの表現は大丈夫かな?
なんて心配になって、また家に引き返し、封を開け直したこと…。
そんなことがあったような気がします。

私の若い頃もまだ文通はさかんにやっていました。
手紙を書いて封をする時の気持ち。
家族や友人、時に恋人から来た手紙の封を切る時の
あのドキドキした気分なんかも、この詩を鑑賞しながら、
新鮮な気持ちで思い出すことができました。

今は、私も両親や息子とラインでやり取りする時代になりましたが、
30年くらい前までは想像も出来なかったことです。

さて、この詩の最後の一句の「又た封を開く」という表現からは、
いかに作者の望郷の念が強かったかが伝わってきますね。

長く旅先にあったという状況だったらしく、
交通も今では想像もできないほど不便だった時代のことですから、
なおのこと故郷の家族や友人が恋しかったことでしょう。

なるほど平易な詩語で真情を伝えるのを
得意とした人の作品だけあるな、と思いました。
ありふれた日常の一コマでありながら、
新鮮な想いに心がホッコリとします。
それでいてなぜか記憶に残る印象的な場面。
じっくり心に効いてくるのを感じます。

この作品は中唐という時代背景もあってか、
ピッタリと規則に則ったキチンとした構成になっています。

盛唐の頃はまだ型破りな作品も見られましたが、
中唐の時代は科挙に漢詩が出題されたため、
型どおりの詩が多いのが特徴なのだそうです。

しかし、型通りの作品であっても、作者の人となりというものは、
こうして作品に滲み出るものだなぁ、とつくづく思った次第です。

qiū sī
秋思
zhāng jí
张籍

luò yáng chéng lǐ jiàn qiū
洛阳城里见秋风,

yù zuò jiā shū yì wàn chóng
欲作家书意万重。

fù kǒng cōng cōng shuō bú jìn
复恐匆匆说不尽,

xíng rén lín fā yòu kāi fēng
行人临发又开封。

写真撮影 藤野彰氏

カテゴリー: 漢詩のお部屋

masumi.h

合同会社日中共同クリエイションズ代表。日本中国語教育者育成協会代表責任者。